クリニック所在地

〒171-0022
東京都豊島区南池袋2-26-5
アイアンドイー池袋ビル9階
※池袋駅東口より南池袋公園に向かって徒歩2分

電話番号03-5949-6119

月 火 水 金曜日

午前 09:00〜12:30

木曜日

午前 09:00〜11:00

月 火 水 金曜日

午後 03:00〜06:30

休診日:木曜日午後、土曜日

日曜日、祝日


『AFBF; Acetate free Biofiltration (アセテートフリーバイオフィルトレーション) 』

アルカリ化と個別処方

透析療法では体内に蓄積した尿毒症物質、過剰な水分や塩分、カリウムなどを効率よく取り除くこと以外に、血液の酸とアルカリのバランスを調節する仕事を行っています。人間の血液は弱アルカリ性で、pHが7.4程度ですが、透析患者さんの血液はやや酸性側に傾いています。この状態をアシドーシスといい、腎臓が酸とアルカリのバランスを調整できなくなっているためです。血液透析(HD)では、アルカリ化をおこなうための成分(アルカリ化剤)が透析液の中に含まれていて、透析器を通じて血液中に移行してアシドーシスを是正しています。しかしアセテートフリーバイオフィルトレーション (AFBF)では、透析液にアルカリ化剤を全く含んでおらず、そのかわりに1.4%の炭酸水素ナトリウム溶液を補充液として透析濾過器(ヘモダイアフィルタ)より後の血液回路内に持続的に注入(後希釈といいます)して、アルカリ化をおこないます。通常は1時間当たり1.4Lから1.8L程度の補充液を注入します。そこで血液透析濾過(HDF)の仲間と理解されています。HDと同様に週3回、1回4〜5時間程度、病院やクリニック等の施設で行います。AFBFは血液の酸とアルカリのバランスをより良いレベルに維持できる事がわかっています。アシドーシスが慢性的に続くと、骨障害や栄養状態にも影響してくることが知られており、できるだけ正常に近い状態にすることが望ましいのですが、患者さんは一人一人が異なった環境で日常生活を送っており、食事の好みも異なりますので、アシドーシスの程度も様々です。したがって本来は必要なアルカリ化剤の量も一人一人違っていますが、HDでは平均的な患者さんのレベルに合わせてアルカリ化剤の濃度が決められています。この方法でも多くの患者さんは十分な治療効果が得られますが、一部の患者さんではアルカリ化が不十分であったり、過剰になったりします。その点AFBFは個々の患者さんの状態に合わせたアルカリ化の調節が行えるという点に特徴があります。

”やさしさ(生体適合性)” を追求した治療法

また、 透析療法はできる限り体に負担をかけず、体にやさしい治療法であることが理想です。この“やさしさ”を「生体適合性」と呼び、透析液にも生体適合性が求められます。透析液のアルカリ化剤としては、炭酸水素ナトリウムが最も体にやさしい成分です。しかし透析液の多くは炭酸水素ナトリウムのみではなく、少量の酢酸を含んでいます(酢酸の代わりにクエン酸を含む透析液もあります)。酢酸は体内に入ると肝臓や筋肉内で代謝され、微量であれば問題はないと考えられていましたが、一部の患者さんではその代謝が不十分で、透析中の血圧低下等の原因になると考えられています。また微量の酢酸でも慢性炎症や透析アミロイド等の合併症を引き起こす可能性も考えられています。そこで酢酸負荷のない治療法が求められるようになってきました。しかし技術的な理由から酢酸を含まない透析液の開発は困難でした。HDの透析液はA剤とB剤の2つの成分を混合して使用しますが、この時A剤に含まれる酢酸が、B剤の成分と化学反応をおこして二酸化炭素を発生することで透析液のpHを安定化させます。AFBFは透析液のB剤に相当する部分をなくし、その代わりに補充液として炭酸水素ナトリウムを注入します。これによりPH調整剤の酢酸が不要となり、炭酸水素ナトリウムのみを使用した血液浄化システムを可能にしています。透析患者さんの体にとっての“やさしさ”を追求した治療法といえます。なお、近年発売された無酢酸透析液は、従来の透析液同様にA剤とB剤からなっていますが、pHの安定化のために使用していた酢酸に代わり、クエン酸を使用したものです。クエン酸の臨床的なメリットとデメリットについては、現時点では不明な点もあり、今後の研究課題となっています。AFBFは無酢酸透析液が登場するまでは、唯一の無酢酸血液浄化法でした。

AFBFと無酢酸オンライン

現在は無酢酸透析液を使用した無酢酸HDや、無酢酸透析液によるオンラインHDFも可能です。AFBFもHDFの一種ですが、AFBFと無酢酸オンラインHDFはどこが違うのでしょうか?AFBFはアルカリ化剤を専ら補充液から注入することでアルカリ化を達成する巧妙な仕組みにより、酢酸もクエン酸も含まない点が特徴です。オンラインHDFでは補充液は透析液から作製し、水質管理は医療機関の責任において行いますが、AFBFの補充液は製薬会社の工場で熱処理による滅菌工程により無菌性を担保しています。一方オンラインHDFでは前希釈の大量液置換を行う事ができますが、AFBFでは前希釈や大量液置換はできません。必ず後希釈で行います。またAFBFは補充液流量と血流量の比がアルカリ化を適性に行う上で重要であるため、血流量が安定しない患者には不向きです。したがって無酢酸治療でも、それぞれの特徴を把握し、適切な療法選択をおこなうことが必要です。

AFBF専用の透析液とHDFに対応した透析装置

AFBF専用の透析液と補充液としては、バイフィル透析剤®およびバイフィル専用炭酸水素ナトリウム補充液®(味の素製薬)が唯一の市販薬です。またこの治療をおこなうためには、個人用の透析装置でHDFに対応した装置が必要です。バイフィル透析剤®の電解質濃度はNa;139, K;2.0, Ca;3.3,  Mg;1.0,  Cl;145.3mEq/Lで、ブドウ糖1g/Lを含有し、バイフィル専用炭酸水素ナトリウム補充液®は、Na;166,HCO3;166mEq/Lです。その理論浸透圧は332mOsm/Lですが、NaHCO3の電離度は0.88と低いため、実測浸透圧は293mOsm/Lとなり、これは生理的食塩水の286mOsm/Lより高く、AFBFで血圧低下を来たしにくい理由の一つとされています。

PastedGraphic

AFBFの臨床効果

AFBFの臨床効果については、血液の酸とアルカリのバランスがよくなるという効果や、血圧が安定化する効果があります。栄養状態を示す指標の血清アルブミン値が上昇したとの報告もあります。イタリアの腎臓学者でAFBFに詳しいSantoro博士らが、血圧の安定化に関して1988年から2004年に報告された9つの臨床研究の成績を総括しています。その報告によれば観察期間は4−12ヶ月で、全症例の合計は200症例ですが、各研究で透析中に臨床症状をともなった血圧低下が発生する割合がAFBで血液透析のおよそ40%程度だろうと述べています。また、わが国でのバイフィル®市販後調査でも、治療前の収縮期血圧が100mmHg以下の患者さんでは、AFBFの開始2ヶ月後に有意な上昇を認めますが、逆に収縮期血圧が140mmHg以上の症例では2ヶ月後に有意に低下しており、血圧の安定化が確認されています。またAFBFによりHDFと比較して不整脈の発生が減少したとする症例報告も見らます。